ホームレスに全財産を渡した話

体験談, 工藤シンクの世界

僕は貯金もなければ財布も持たず、住民票すらないような……いつでも『ポケットの中にある現金が全財産』というような、気軽なライフスタイルをしてきました。
そんなわなわけで、日々の暮らしはもちろん、世界中を旅しては無一文になることはしょっちゅうですが、先日の東京での体験はとても味わい深いものでした。

ホームレスのお婆さん

僕の拠点は熊本県ですが、東京でのミッションをやりとげ、ご満悦で渋谷の街をさまよっていた朝のことです。
僕のポケットの全財産は残り1156円になっていました。

熊本に帰ることもままならないので、ひとまず開店したてのTULLY’sコーヒーでハニーミルクラテを飲み一息いれ、これで全財産は672円。

「さて、どうしようかな?」

朝カフェをすませ外にでると、ふとバス停のベンチに座るおばあさんと目があいました。
僕をじっとみつめるその微笑みに、なぜだかとても引き込まれる。

すると、お婆さんは唐突に「お金をちょうだい」と僕に手のひらを差し出してきたのです。
ホームレスのお婆さんだったのか。
その情緒から、僕はなんだかイスラムの物乞いにバクシーシされているような感覚におちいりました。
イスラム圏には『富める者が貧しいものに分け与える』バクシーシという文化があり、このお婆さんの醸す雰囲気がそれを彷彿させたのです。

僕はポケットから小銭を出してみました。
手には500円玉が1枚、100円玉が1枚、50円玉が1枚、10円玉と1円玉が2枚……そう、僕の全財産。
ちょっと悩みつつ、、、僕は500円玉だけを残し、端数の172円をおばあさんに渡しました。
するとお婆さんは、微笑みつつも「…そっちもちょうだい」といってきたのです。
500円玉…つまりは僕の残りの全財産のほうもくれと。

『これを渡すと無一文になる』という恐れと、全てを求めるお婆さんにちょっとした憤りを感じましたが、、、
すぐに『500円があろうがなかろうが何も変わらないや』ということに気付き、残りの500円もお婆さんにあげました。

おばあさんは『ありがとう』もいわず、ただ微笑んでいました。

『しょうがね~なぁ』と、僕も微笑むしかなかなく、、、

いや、実際、僕は微笑んでいたのです。

ホームレスのお婆さんは僕よりお金持ちになり、僕は無一文で東京の渋谷に立たされた、、、なんともいえない気分。

見渡せば朝の渋谷は、ビルの狭間をせわしなく通勤の人々が行き交っています。

なぜだか僕は、その全てが愛おしくみえ、、、

『さて、どうしようかな~』と、清々しい気分で朝の街を歩きはじめたものです。

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